化学変化と物理変化

危険物取扱者(乙4)の資格試験を受けることになって、問題集を見て勉強をしていたのですが、この問題集、ところどころツッコミを入れたくなるところがあって、試験も終わったので調べてみました。
【化学変化と物理変化】
試験問題で、いろいろな現象が「化学変化」なのか「物理変化」なのかを選択するというものが定番のようです。しかし、気になったのが以下の3例でした。

  1. タンクローリーの積載ガソリンに、走行中、静電気が発生した
  2. 熱帯林に酸性雨が降った
  3. 潮風による碍子の絶縁不良

特に気になったのは最初の帯電で、ガソリン自体の特性は「変化」していないので、物理変化でも化学変化でもないのではないかと思ったのです。電子が移動するだけで物理変化と言うべきなのかというのが不明でした。しかし、問題集の解答では物理変化とされていました。
まず、「物理学辞典(三訂版)」(培風館、2005年)を調べてみましたが、そもそも「物理変化」も「化学変化」も項目として載っていません。たしかに、専門家はこのようなあいまいな用語は使用せず、「原子間結合の変化」「酸化」「相変態」「電離」といった具体的かつきっちり定義できる用語しか使用しません。物理学者には意味のない用語なのでしょう。
次に、「理化学辞典(第五版)」(岩波書店、1998年)も見てみました。やはり、「物理変化」も「化学変化」も載っていません。ただ、「化学反応」の項に「化学変化と同義」とありました。物理学辞典と同様、あまり積極的に定義する用語と考えていないようです。
探した資料の中で項目があったのが、「化学辞典」(東京化学同人、1994年)です。引用すると、

物理変化[physical change] 物質の変化を伴わない変化をいう.物体の変形や破断のような力学的変化が物理変化であることには疑義はないが,相転移や溶解を物理変化とみるか化学変化とみるかについては問題がある.それは”物質”という語の意味に関係する問題である.相変化を,同一物質が気体や液体や固体となることであるとみて三態変化というが,ダイヤモンドと黒鉛とは同一物質とはみないのが普通である.分子性化合物以外の化合物では,相変化や溶解のとき必ず化学結合に変化が起こっているから,これらを化学変化とみることができるが,常温常圧下で可逆的に起こるとき,それらを物理変化とするのが一般的である.

化学変化[chemical change] 狭義には,ある物質が他の物質に変化するすることをいう(→化学反応).窒素と水素からアンモニアが生成する変化はこの例である.同一物質でも明らかに外見または性質が変化する場合にも化学変化ということがある.タンパク質の変性やゾルからゲルへの変化などはその例である.ふつう物理変化とみなされる気化のときに化学変化を伴うことがある(塩化アンモニウムの気化,NH4Cl→NH3+HCl).一般には化学結合の組換えなど構造の変化を伴う.

材料としての性質の変化がない力学的変化まで物理変化に含めてしまっているとは、正直驚きです。Wikipedia(日本語版)の記述もこれに倣っているようですが、これだけ広義だと場所の移動やコーティングですら物理変化になってしまいそうです。Wikipedia英語版のニュアンスは結構違っています。人によって定義が変わったり、狭義や広義の使い分けの出てくるような用語に、科学的意義はあるのか…いや、ない、と言ってツッコミ完了としたいと思います。
【融点と沸点】
あとは問題集でびっくりしたところとして、

  1. 二酸化炭素の融点は、沸点より低い

が「誤り」とされ、解答解説に「二酸化炭素の融点は、-56.6℃で沸点は-78.2℃です」と書いてありましたが、これは笑うところでしょうか?
二酸化炭素は常圧では液相が存在しなく、「沸点が約-78℃」(小数点以下が違う?)は正しいですが、厳密には昇華点になります。そのため、常圧での「融点」は存在しないのが正解です。-57℃というのは、加圧していって液相の出てくる三重点での融点で、このときの圧力は5.2気圧です。圧力の違う条件下での融点と沸点を比較することには全く意味はなく、その意味で「誤り」という意図の問題だったもかもしれませんが…。もし、融点が沸点より高い物質があったら、見てみたいです。

ともかく、試験には物理変化と化学変化の問題も出ず、結果もたぶん大丈夫なので、今後勤務先をクビになってもガソリンスタンドでアルバイトができるでしょう。