「サザエさん」謎オチを2倍楽しむ

先週の雪室さんのラジオトークで「サザエさん」については「原作を必ず一つ入れなければならない」「原作にこだわらず自由に作るので原作の入り場所がなくなって謎オチになってしまう」という話がありました。「原作を入れる」お約束については、何度か書かれたりしていますが、「謎オチ」について言及するのは初めてではないかと思います。実例を見てみましょう。

2013年2月24日放送の「となりの浮江さん」(作品No. 6914)は、浮江さんの声がする缶ジュースの自動販売機が出てくる楽しい回でした。声が浮江さんに似ているというだけで、自動販売機が磯野家一帯のブームになり、みんなで缶ジュースを買いまくるという話です。数えてみると、(1) タラちゃんがサザエに買わせる、(2) カツオが波平に買わせようとして通りがかりの人が買う、(3) カツオがノリスケに買わせようとして花沢さんが買う、(4) カツオが伊佐坂先生に買わせる、(5) カツオが浮江さんに買わせる、と7分に5回も買っています。

しかし、この話には「謎オチ」が付いていて、フネとサザエがテレビが見たいので、夕食の皿洗いを波平とマスオにやってもらおうとしたが、結局下請けに出されてカツオが皿洗いをするというオチでした。このオチが本編にどのように結びついているか、放送を1回見ただけでわかった人はまずいないのではないかと思います。自分も、録画を見直してもすぐにはわからず、結構悩みました。(こんなオチでも誰も文句を言わないのが「サザエさん」のすごいところでもあります。)
雪室さんのトークから考えると、この謎オチが原作ネタだと推測されます。この原作(未確認ですが)からどのように話が展開されていったのでしょうか。リンクは、4回目の缶ジュースにありました。伊佐坂先生がハチを散歩させていますが、本来ハチの散歩は浮江さん(か甚六)の役目のはずです。浮江さんの代役が伊佐坂先生で、さらにその代役をカツオがやる羽目になるという、原作ネタと同じ構図が出てきます。皿洗いの2段階下請けの話を、ハチの散歩の2段階下請けに投影したわけです。

すると、伊佐坂先生が散歩をさせなければいけない理由として、浮江さんの外出(旅行)が必要になります。そして、さらに伊佐坂先生からカツオに下請けに出す理由も必要になります。その理由が、「浮江さんの声のする自動販売機」が出てきて、ハチがそこから動かなくなる、ということだったんです。この発想はすごい…というか常人では思い浮かぶものではないと思います。こんなぶっ飛んだ発想が出るからこそ、雪室さんの作品がいつも想像の斜め上に飛んで行ってしまうのですね。
しかし、話はこれで収まらなく、「浮江さんの声のする自動販売機」があったら磯野家の人たちはどうするか、が作品の隙間にどんどん埋められていくと同時に、ハチと浮江さんの関係なども語られて、内容の充実したテンポのよい作品になってきます。このあたりはラジオトークでも語られた「師匠譲りの技術」と言えるのかもしれません。そしてついには「花沢さんの声のする自動販売機」まで出てきて、原作からの距離はピークに達します。ここまで来たら、もう原作の皿洗い下請けの話は、高尾山から見たスカイツリーの如く、遙か遠くになってしまいました。そして「謎オチ」になってしまったわけです。
正直言って、「謎オチ」の回は面白い話が多いです。原作を無慈悲に超えて突き進む雪室さんの想像力が堪能できます。そして、アイディアがどのように展開されてきたのかは、できあがった作品からはふつうなかなか想像しにくいものですが、「原作を入れる」お約束のおかげでこうやって推測できたりもするのです。まさしく2倍楽しみことができるのです!